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雨女 -Rainy Lady- 連載終了

第弐章 落雨

落雨(りう)は雨の似合う女だ。
さらさらとした長い黒髪が流れ落ちる雨に似ていて、オレを無性に不安にさせるのだ。
彼女が曇り空を見上げながら、アルミの如雨露に入れた水を植木鉢に少しずつ上げているさまはホントに良く似合う。
彼女は雨のような女だった。

さらさらと透き通るような声を薄いピンク色をした唇から吐息とともにつむぎだす姿を見ているとため息が出る。その度に彼女は雨が落ちるような声で言うのだ。
「どうしたの?」
その度にオレは答えるのだ。
「いや、なんでもない」
そういうと彼女は少しだけ困ったような苦笑いを顔に浮かべる。まるで、曇り空のような…

彼女に一番似合う服は、白いワンピースだと思う。晴天のときに浮かぶ白い雲のようになんの穢れもない、真っ白なワンピース。
ノースリーブでいると、その肌の白さがいっそう強調される。
長袖だと、少し弱々しく見えるのは、彼女のイメージが雨だからだろうか

彼女の手を一度、握ったことがある。
流水のように冷たかったのを覚えている。少し驚くと、彼女は
「ごめんね」
と、困ったような笑みを浮かべて言うのだ。
「いや、気にするな」
あの時、もう少し優しい言葉をかけるべきだったと、オレは反省している。
当たり前なのだ…彼女の手は冷たくてもいいのだ…
オレが彼女に抱くイメージは雨なのだから

少しだけ疑うときがあるのだ。
彼女の血は一体、何色なのだろう…と、
本当に赤い血が流れているのだろうか…
彼女の体内をめぐる血液は、雨じゃないのか…
自分でも馬鹿なことだとはわかっている。
そんなときは、彼女と少しだけ笑いあう。

彼女の体を抱きしめてみた。
まるで、春雨のように細い胴体は少しでも力を入れれば折れてしまいそうだった。
協調性のない胸と長い髪が身体に心地よい安心をもたらしてくれる。
彼女は雨そのもののような気がしてくる

彼女の胸に耳を当てると、水の流れるような音が聞こえた。
トクントクン…
それが、身体をめぐる血液の音だとわかるのに、すごく時間がかかったように思う
安心すると眠くなる。
そこで彼女は言うのだ

「私は、人間だよ。」

彼女の精一杯の自己主張…心を見透かされたような気がしたが、悪くはない。
彼女に身を任せる。だんだんと、預けていた体が下へ下へと落ちていく。
そして、ちょうど頭がひざくらいにまで浸ったころ、完全に眠りが訪れるのだ。

そう、沈んでいくイメージが頭の中に浮かんでくる
大きな大きな水で囲まれた水槽の中を
青く透き通る雨だまりの中に身体ごと沈んでいく自分
深く深く…ゆっくりと…ただただ、身体を任せて落ちていく
雨の中に落ちていく


重いまぶたを開けると、たまっていく雨が見えた。
1滴1滴だが、確実に少しずつ少しずつ…

雨の音が聞こえる。さらさらさらさらと…


冷たくて心地よい雨の音が…彼女の身体が…心地よく



心に響く声…心地よく…眠る


落雨は雨の似合う女だ…
これから、オレは彼女のそばに居続けるだろう。
彼女がオレのそばに居てくれる限り…


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