亡父、松浦太一の葬儀に際しましては、丁寧な弔電、献花等を賜りまして、 誠にありがたく厚く御礼申し上げます。 おかげさまをもちまして、葬儀をとどこおりなく相営むことができました。 皆さまの思い遣りは、傷心の私達の心を癒すものでした。 とても嬉しくとてもありがたく感じました。 お返しと言っては何なのですが、皆さんに贈りたいと思います。 少し話をさせてください。とても不思議で、とてもあったかい話です。 皆さんもご存知のように万協製薬は22年前の阪神大震災で被災し、社屋が 全壊して21年前に三重県多気町に移転しました。 しかし、それまでは神戸の長田区の西代駅前に工場があったのです。今は地下駅と なってしまいましたが、私達の工場があった頃は、高架駅でした。その南側の降り口に、 ロアという小さな洋菓子店がありました。 私達神戸時代の万協製薬のみんなは、何か良い事があるたびに、ロアでケーキを 買ってみんなで食べたものです。今の万協製薬よりもずっと小さい会社でしたが、 それなりに暖かいそんな会社でした。 万協製薬が三重県に移転してからも、私達夫婦はこのロアの味が忘れられずに、 時々神戸に帰ってはロアに立ち寄りました。 町は震災で形を変えてしまいましたが、その後もロアは健在で、父がロアのマスター と同じ絵画教室に通っていたこともあり、とても良くしてもらいました。 いつの頃からか、私達がそうして買って帰ったアップルパイが万協のみんなに食べて もらい美味しいと評判になって、まとめて神戸から送ってもらうようになりました。 このことは、神戸の長田区と多気町が繋がったような気がして私達には、とても 嬉しい気持ちでした。 あれから、どのくらいの時間が経った事でしょう。10年前に母を突然の事故で亡くして からは私達には、時間の流れがよく、わからなくなりました。 そうしてロアも閉店して、あのアップルパイを二度と食べることが出来なくなってしまいました。 ところが、2年前より知り合った明和町の入江さんという方の娘さんが、とても洋菓子 を作るのが上手くて私達は、彼女ならあのロアのアップルパイを再現出来るのでは ないか?と考えました。何度かの試作と試食を重ねてようやく私達の思うロアの アップルパイが再現出来る時が来ました。 そうして今日、皆さんの前にお届け出来るのが、このアップルパイです。 不思議な話ですが、この一週間で父も亡くなり葬儀が終わって帰ってきた頃に、 このアップルパイが完成しました。まるで父の生前を皆に思い出してもらえるかのようです。 不思議ついでにもう二つ。 一つは私は父が亡くなる2日前に父に会いに神戸に帰ったことです。 なんらかの偶然が重なって帰神したのですが、私達夫婦のほかに息子の信太も 一緒でした。今、息子がカメラに凝っていることもあり、私達は三世代の男同士で 記念写真を撮り、いろんな話をしました。 父とは会えばいつもケンカになった私でしたが先週の時は、何故か父の話を素直に 聞けました。 私達が父にあったそれが最後でしたから、本当にありがたく、会えて良かったなと 思いました。父はまるで死期を予感したように翌日、台風の中を散髪に行ったようです。 ユタカ散髪店のご主人が、父が、どうしても今日ではなくてはいけない!といって 聞かなかったそうです。 もちろん、この話は、アップルパイの話も含めて全部偶然なのでしょう。 しかし、私達にはとても素敵な偶然に思えたのです。 人は必ず死にます。それはどんな人にも避けられない事です。 でも残された者には、何かの偶然であってもそれにすがって生きる時間が、 必要なのです。 今私達は、そんな時間を生きているのでしょう。だから、きっと多少、おセンチに なっているのだと思います。もし神様が居たら、母の時とは違ってきちんと父に お別れが出来た事をお礼を言いたいと思います。 でも、やはり両方とも突然過ぎます。人の心はそんなに簡単に割り切れるものでは ないようです。 神戸を離れて三重県で、成功した事を私達は心から嬉しく思って居ますし、 皆さんと出逢えて共に人生の大切な時間を過ごせたことに感謝しています。 どんなに感謝しても足りないほどです。 だけれど、だけれども、私達の万協製薬が神戸から来た、神戸生まれの会社で ある事も忘れないで欲しいんです。父も母も居なくなって、もう神戸は私達の故郷 ではないのかもしれません。 でも時々、ほんの時々、そんな事を思い出して欲しいのです。 私達の長い話を聞いてくださって、本当にありがとうございます。 これからも、みんなで幸せになりましょう! 亡父になりかわりまして、生前に賜りましたご厚情に深謝申し上げますとともに、 今後とも変わらぬご厚誼を賜りますようお願い申し上げます。 本来なら拝趨のうえ御礼申し上げるべきところですが、略儀ながら本状をもちまして ご挨拶申し上げます。 万協製薬株式会社 松浦信男 松浦慶子
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