1996年1月1日 明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。 製品ができるまで はじめに 私、松浦信男は平成7年4月に先代社長、永井達夫の後継者として東洋漢方製薬株式会社の代表取締役に就任致しました。 東洋漢方製薬は40数年前に粒状漢方を開発した長倉音蔵氏、永井藤治氏らによって設立され、漢方専門薬局を主要な顧客とする漢方製剤メーカーとして歩んで来ました。 平成7年5月より阪神大震災にて被害を受けた万協製薬株式会社の外用剤(液剤・軟膏)の主要品目について新たに承継して、製造を始めました。 生産工場は2つあり、いずれも大阪府内の東大阪市(延べ床面積1,320㎡)、富田林市(延べ床面積2,093㎡)に位置しています。 昭和46年4月の会社設立当初は、日本橋の本社での小売販売のみでしたが昭和51年より2期に分けて東大阪工場をGMPに適合するように建設し、原料の抽出、濃縮から造粒、包装までを行う一貫製造メーカーとしてのスタートを切りました。 平成元年には第2工場を大阪府富田林市の中小企業団地内に竣工しました。 この南大阪工園(工場内に薬草園があることから命名)は、気密性の高い鉄筋コンクリート造りの建物で、フィルターろ過をした清浄な空気環境のもと製造をしており、また菌数検査の出来る研究設備を設置して品質の向上に努めています。 今日は「製品ができるまで」について弊社の取り組みを交えて、お話ししたいと思います。 医薬品の承認と製造 1.承認基準 医薬品の開発というと武田、三共、藤沢などのトップクラスの製薬会社における10年、100億ともいわれる膨大な投資を する「新薬開発」をイメージされるのではないかと思います。 しかしながら資本力と研究開発力の劣る中小製薬業では同じ土俵での勝負にはなりませんので、すでに有効性と安全性が確認された分野での製品開発が主です。 その中で代表的なものといえば日本薬局方に収載されている医薬品ですが、国はそれ以外の医薬品についても順次、再評価を行なっています。そして需要の多いところから新たに「承認基準」を作り基準が出来たものについては、その範囲内でのみ承認を認めています。 この承認基準には一昨年3月に通知された痔疾用薬製造承認基準のほか胃腸薬、寫下薬、風邪薬等の基準がすでに公表されています。 一般用医薬品で新規に製造承認を得るときは、この基準処方の範囲内で企画するのが一般的です。 建て前としては臨床データをとれば前例のない基準以外の成分や効能を取得することは可能ですが、系列化した医療システムのなかで厚生省が評価する医療機関でデータをとることは、並大抵ではありません。しかし、基準処方の範囲内で考える場合には有効性と安全性について、証明する必要がなく品質と規格の資料だけで済むのです。この差は大きいです。 つまり、意外と単純に思えることも現代科学的に証明することが困難である場合もあるからです。 例えば、「カゼに葛根湯が効く」ということを証明しようとすると「症」の問題や自然治癒と薬による効果との区別、食養生などが各人で異なることもありなかなか難しいのです。 2.ターゲットの選定 新製品を考えるとき最初に行うのは、ターゲットの選定です。 これは、「どのような症状に、どのような特長のある製品を開発するのか」ということです。ともすれば同じような処方になりやすい承認基準の範囲内で製品に、いかに特長を出すかがカギです。 剤形なども一般的には微差になりやすくなりますが、水なしで服用できるチュアブルやチョコレート剤、ゼリー状のドロップなども今後は増えてくるものと思われます。 またネーミングや販売方法、広告宣伝などで差をつけることも考えられます。 競争相手の少ない分野に進出したり、製造ロットを大きくすることによりコストを引き下げ、低価格を武器にする方法もあります。 3.処方設計と試作 ターゲットを決めたら、大枠の処方を考えてから試作に入ります。 これは机上で配合を考え、一度試作すればOKなどということはなく、何度も繰り返します。色、形状、崩壊度、粘度などの物性規格はどうか、味はどうかなど、開発者の考え方によってポイントは異なりますが、幾度となく試作を繰り返して処方を決定します。ここまでの作業は、試作用の機械を使って行うことが多いです。 次に製造条件、手順などを決定の上で、実際の製造の規模で、実際の製造機械を使って3ロットの実生産規模での試作製造を行います。 例えば、この時に「混合工程」で順序、量、時間が適切かどうかを、条件を変え均一性が保証されるデータを積み上げていく ことが求められています。このことが、最近、製薬業界でよく口にされる「バリデーション」です。 また、この時に用いる計量器が標準のものに比べて、誤差が僅少であることを保証することを「キャリブレーション」と言います。 こういったことを行政の側から求められるようになった背景には、製造の各工程での管理を、より厳密にして異常があればすぐに発見して正しく対応できるようにするためです。PL法の関係もあるでしょう。 しかしながらこの「正しく対応」が問題で、第3者にとっても「正しい対応」であることが理解できるように各工程の数字を文書化して記録しながら、標準との差異を常にチエックすることが求められています。 現況はというと、こういったバリデーションをクリアするために製薬各社は、品質管理部門の作業量の増大とそのコスト増に苦慮しています。これは、将来にわたって日本の中小製薬会社の大きな足枷となっていくことでしょう。 4.データの集積と申請書の作成 無事に試作が終了すると、通常の条件と、より過酷な温度、湿度による条件のもとで経時変化を6カ月間調査します。 配合成分の品質規格は、基本的に単味の処方である新薬の場合には比較的に作りやすいのですが漢方処方や外用剤などの複合成分のものは、お互いの成分どうしが妨害し合って規格の確立が、難しい場合が多いです。 ですから、設定条件そのものを数社の共同で作り、それを各社のノウハウとする例もあります。 全ての部門の6カ月間にわたるデータを集め品質の安定を確認したうえで、厚生省に提出する「承認申請書」を作成します。 その際には販売名を明記しなければいけませんが、つけた名称が他社の商標権を侵害していないことを調査する必要があります。 そのため、販売名の登録商標は、前もって行う場合が多いようです。 また、申請書自体も昨年より「フレキシブルディスク」というフロッピーディスクなどの磁気媒体によって申請する という風に変化してきています。 昭和30年代の申請書は販売名、剤型、成分・分量、効能・効果、製造方法、試験法などの簡単な記載があれば許可が下りたようですから、隔日の感があります。 データをとる分析機器も昔は、1枚、1枚クロマトグラム用の薄層板を上げていたものからオートサンプラーを使った無人自動分析へと変わりつつあります。 これも時代の変化でょうか、「ガラスの細管」が縦横無尽に走る実験室は確実に過去の物になりつつあります。 さて、続いて実際的に弊社の製品が出来るまでをご説明します。 東洋漢方製薬の製品と製造工程 <漢方製剤部門> 漢方製造部門は東大阪工場と南大阪工園の両方にあり、東工場ではスクリーン押し出しによる「湿式顆粒剤」、 南大阪工園では打錠したスラグを破砕して、分級により顆粒を得る「乾式顆粒剤」という2種類の剤形の違う顆粒を生産しています。 それぞれの製造工程は次の通りです。 漢方エキス顆粒剤の製造工程 「湿式顆粒」 「乾式顆粒」 原料試験 原料試験 ↓ ↓ 指図書発行 原料ロット管理表作成 ↓ ↓ 原料の秤量 指図書作成 ↓ ↓ 抽 出 原料の秤量 ↓ ↓ 濃 縮 混 合 ↓ ↓ エキス+賦形剤の調製 打 錠 ↓ ↓ 混 合 解 砕 ↓ ↓ 造 粒 し 過 ↓ ↓ 乾 燥 中間製品試験 ↓ ↓ 整 粒(分級) 充 填 ↓ ↓ 中間製品試験 包 装 ↓ ↓ 充 填 最終製品試験 ↓ ↓ 包 装→ 最終製品試験→出荷判定 出荷 判定 両製剤の特徴を述べますと 「湿式造粒」 製造方法は乾燥エキス粉末と生薬末または賦形剤を水練りにて混合し、造粒機にて、そうめん状のものを製しこれを 乾燥→破砕→分級して顆粒を作ります。 この製剤は 1.生薬末を配合出来るので賦形剤の量を少なくすることが出来、漢方薬らしい風味がある。 2.粒が揃いやすく、調剤がし易い。 3.吸湿に強いことなどが、あげられます。しかしながら自動化は難しく中少量生産向きと言えます。 「乾式造粒」 製造方法は乾燥エキス粉末と賦形剤を混合し、直接打錠により直径2センチの錠剤を作り、これを破砕→分級して顆粒を得るものです。 この製剤の特徴は 1.エキスの含有量を高くすることが出来るので(40から50パーセント) 1日の服用量が少なくてすむ。 2.形状は不定形で溶けやすく、マイルドである。 3.2の反面として吸湿に弱いので、開封後は袋の口を折り返す、フタを固く締めるなどの注意が必要だが、造粒時に乾燥工程がないので、熱に弱い製品の品質保持と大量生産に向いていると、言えます。 漢方薬は上記の2種の製法で作られた繁用漢方処方群の500グラム包装が主力です。(一般用漢方エキス顆粒剤・約60処方、医療用3処方並びに湯剤・約60処方を製造) しかし、最近は分包剤の需要も増え、それに応えるべくこのたび、新たに6連式4包シール自動分包機を導入しました。 <外用剤部門> 昨年より新たに始めた外用剤部門は今までとは全く剤形が異なるとともに、少量他品種から一品大量生産型の商品作りが、必要となります。 外用剤の「軟膏剤」、「外用液剤」はいずれも南大阪工園で製造されています。 それぞれの製造工程は次の通りです。 外用剤の製造工程 「軟膏剤」 「外用液剤」 原料試験 原料試験 ↓ ↓ 原料ロット管理表作成 原料ロット管理表作成 ↓ ↓ 指図書発行 指図書発行 ↓ ↓ 原料の秤量 原料の秤量 ↓ ↓ 練 合-(らい潰機又は乳化機) 混合・溶解-(液剤調製タンク) ↓ ↓ 充 填-(チューブ充填機) 充 填-(液体充填機) ↓ ↓ 承認規格試験 承認規格試験 ↓ ↓ 包 装-(カートニングマシン) 包 装-(カートニングマシン) ↓ ↓ 最終製品試験 最終製品試験 ↓ ↓ 出荷 判定 出荷 判定 *外用液剤の製造に使用する水の通過経路 市水→活性炭→イオン交換装置→紫外線殺菌装置→液剤調製タンク→精密ろ過 機→補助タンク→充填 両製剤の特徴を述べますと 「軟膏剤」 軟膏剤はすべて外皮用薬で歯科口腔用剤(デンタルピルクリーム、デンタルクリーム)、化膿性疾患用薬(ボルネF軟膏)、鎮痒消炎薬(ペレトンアルファ、ペレトンW)、寄生性皮膚用薬(ローレンクロマクリーム、ローレンゴールド軟膏)、痔疾用薬(レーバンH、レーバンG軟膏)などがあります。 軟膏剤の製造工程において最も重要な工程は「練合」工程で、これには、らい潰機による混合から、乳化機におけるホモジナイズまで多種多様の機械、製法をもって行われます。 軟膏剤は薬局製剤にもたくさんの処方が取り上げられており、ありきたりの内容、効果では取り上げていただけません。 処方が統一されている漢方薬とは違い、承認基準のなかで、いかに効果の高い製剤を作り出せるかが弊社の指命と考えています。 上記の製品の中でも私自身が手がけたクリーム剤「ペレトンアルファ」は、ステロイド剤の連用による副作用を防ぐため酢酸デキサメタゾン(ステロイド剤の中では弱い部類に入る)0.025パーセントに6つの有効成分を加えることで、相乗作用を生みだし、皮膚刺激が少なく、即効性があり、使用感が良いという相反する目標を掲げました。 処方組みをして、何百回と試作を繰り返した末に達成することのできた製品です。クリーム剤は配合成分が多種多様になるほど安定性を保つことが難しくなります。最近では外用薬といえども、使用感のよいものが好まれます。 「ペレトンアルファ」はそういった点をクリア出来たためか、お陰様で先生方に大変愛される製品となっているようで、生みの親の私も大変有り難いことだと感謝いたしております。10種の新製品を発売しても残るのは1つあれば良いほうだと言われます。9種類失敗してもそれに耐える力がメーカーには必要です。加熱した成分を混合するだけの軟膏剤にも多くの秘密があることを、お解りいただければ幸いです。 「外用液剤」 外用液剤では局部そう痒症治療薬(レーバン、レーバンGローション)、口腔咽喉薬(うがいコンク)寄生性皮膚用薬(ローレンクロマ液、ローレンゴールド液)等があります。 この中では「陰部掻痒症」の効能を持つレーバン、レーバンGローションは最近、多い女性のデリケートゾーンの悩みに応える商品として新たなニーズを開発していこうとしている製品で弊社も大変力を入れて(3月にスプレータイプ新発売)います。 外用液剤においては使用する「水」が最も重要な要素になります。いくら良い処方であっても水が良くなければ、良い製品はできません。まるで日本酒の世界のようですが、これは本当のはなしです。「殺菌消毒薬の中に菌がいた!」などといった笑えない話が現実にあるのですから。 そのため製造に使用する水には上掲のように、大変気をつかいます。 また最近では、製造所内の空気、気圧まで厳しい管理が必要になってきています。こういった「コスト」をいかに吸収していくかが、21世紀の日本の製薬業の大きな問題です。 製薬業の現状とこれから 国際化、グローバリゼーションなどと言われて久しいですが、流通の分野では内外価格差からくる消費財の国際水準への移行、イコール「価格破壊」が大きな問題となっています。 医薬品製造の分野における最近の変革は、WHOを中心に国際的な品質管理、安定性の向上のための各国間の調整が行われているためです。化学技術の進歩に取り残されないように各社共がんばっている現状です。 「さじ加減」と言う言葉があるように昔は、薬も1人1人について良く症状を尋ねた上で、心のふれ合いも効き目の一部として処方されていたようです。 しかし、日本の経済が大きくなり国際的な立場で諸外国との調和を果たさなければいけない現状を考えると、古き良き昔に立ち返りたいという甘えを捨てて前向きに行かなければと思います。高齢化・少子社会の到来と保険医療を含めた 社会福祉財源の逼迫を考えると微力ではあっても、安心して使っていただける一般用医薬品の開発と提供という命題にも意味があろうかと思います。 先日、ある役所の方に、これから製薬メーカーの進む道は3つしかない。 それは、1.廃業する。 2.区分許可を利用して他社に製造を委託して、販売だけを行う。 3.とことんGMPを押しすすめ、行政の方針についていく。 この3つの方法以外に日本で製薬会社として生き残る道は無い!という大変厳しい話を、うかがいました。弊社は3つめを選択しています。 先生方に育てていただいた東洋漢方製薬が、いつまでも良い薬をおとどけできるよう社員全員、力を合わせて精一杯の努力をする所存です。 小規模ながら、漢方薬と外用薬といった全く違った技術とノウハウが合体することにより東洋漢方製薬は、医薬品メーカーとしての基盤が強化されたと私は思っております。 どうぞ今後ともご指導、ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
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